老師《らおしー》の玉手箱

先生方が玉手箱の中にしまっておきたいような大事な思い出話をしよう!という老師《らおしー》の玉手箱。

「日本の漢字・中国の漢字 (その2)」

 

はるか昔、私が高校に入学して間もなくのことです。「生物」の授業の第1回目に担当の教師がこんな話をしました。「君たちこの授業の科目名『生物』はなんと読むか知っているか。『いきもの』じゃないぞ。もちろん『なまもの』でもない。『せいぶつ』と読むんだ」。白衣を来た小柄の教師がひどく甲高い声で、その後どんな話を続けたのかは全く記憶にありません。この教師が受験を終えてやっと入学してきた生徒たちの第1回目の授業をなぜこんな訓話?から始めたのかもいまとなっては記憶の彼方です。

前回漢字の読み方のお話しをしました(こちらもずいぶん昔のような気がしていますが)。「生物」という漢字はたしかに「いきもの」「なまもの」「せいぶつ」などの読み方があります。それぞれ2つの漢字を「訓読み+訓読み」あるいは「音読み+音読み」と読んでおり、熟語の読み方の原則に合致しています。

 

 


中国北京のバス停。時刻表はありません。
停留所が始発から終点まで列記してあります。

 

では「砂」「剛」「黄」はどう読めばいいでしょうか。

「砂金」さきん
「金剛」こんごう
「黄金」おうごん

「金」の字を「きん」「こん」「ごん」と読んでいますね。これはどういうふうに使い分けるのでしょうか?

みなさんは「呉音」「漢音」「唐音」という言葉に聞き覚えはないでしょうか。中国からの文物の流入は3回のピークがありました。その際、時代・地域により中国の漢字音は変化しています。そして日本人はその時々の漢字音を仮名を使って一生懸命記録しました。そのため1つの漢字の読み方(音読み)が2通り、3通りあったりします。

「金」を「きん」と読むのは遣唐使などが伝えた「漢音」、「こん」「ごん」と読むのはそれより古い時代に伝わった「呉音」です。
「砂」(さ)は漢音ですので、「砂金」(さきん)は「漢音+漢音」、「黄金」は「黄」(おう)が呉音、「金」(ごん)が呉音なので「呉音+呉音」ということになります。熟語の読み方にはこんなルールがあります。

また漢字の音読みの大半は「漢音」なのですが、仏教用語には呉音で読む語が多く、「金剛」もその一例です

 


ハルピンで見かけた標識。===>
どうやら環境基準を満たしていない自動車は 街なかを運転できないようです。

 

こうした説明は中国人留学生にはだいぶ難しいようでした。中国では漢字の発音を示す記号がほとんどなかったので、発音の変化が記録に残りにくく、漢字の読み方が1字1音であるせいかもしれません。

その点で日本の漢字音「かな表記」は、中国の漢字音変化の歴史をよく保存しているといえるかもしれません。

 

 

 

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